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地元 京都をはじめとする関西地方、ライブやイベントの遠征で出向いた土地で食べた美味しいもの・美味しいお酒を思い返したり、友に勧めたり、自分が次回行くときの参考にするための自分用備忘録です。 リアルタイムで呟くにはX(旧Twitter)で十分なのですが、後から見返すには自分のポストが多すぎて見つけられないので、思い切ってブログで記録することにしました。
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SCC新刊です。
 ある調査の際、浚われてしまった麻衣は新たな能力を身に付ける。二十歳を向かえる彼女に新たな後ろ楯を付けようとするものの、その相手は自分でも良いのでは、と考えた博士と、博士に恋を始めた給仕娘のお話。





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いざ燃ゆる頬を 君が頬に


 しっかりと温めたカップに丁寧に紅茶を注ぎいれる。ふわり、と立ち上ったカモミールの柔らかな甘い香りに笑みを浮かべつつ麻衣は、「お待たせ~」と言いながら応接室に戻った。おかわりもハーブティーなことに嫌そうな表情をするかもしれないが、彼の顔色はまだまだ良いとは言えないのだから、今日は我慢してもらおう。明日、出勤してきたときの様子を見て、マシになっているようならとっておきのを提供してあげるから、ともし不満げに見つめられたなら返す言葉も用意していた麻衣はしかし、ソファにもたれたまま動きを止めていた彼に、あれ、と首を傾げた。それなりに難しい内容を相談した自覚はあるが、ナルがそこまで悩むと思っていなかったのだ。いや、いくら彼でも自分の訴えだけですぐさま解決策を見つけ出せるだとはさすがに思ってはいないが、それなりに手段というか、脳波を取らせろ、くらいは言われるかもしれないと覚悟していたのだけれど。


「あの、ナル?」

「……本気か?」

「はい?」


 とりあえず新しいティーカップを彼の前において、どうしたの、と首を傾げつつ覗き込めばナルが、左手で顔を抑えるようにしながら訊ねてくる。本気の意味が判らず瞬く麻衣に対して、「だから」と付け加える。


「さっき。僕のことを、好きだ、と……」

「へ……っ!?」


 何故かひどく言い辛そうに告げられた言葉はしかし、麻衣にとって予想外のもので、なんのこと、と内心で首を傾げ。


「っ、あたし、口に出してた!?」


 つい先ほど、自身の異変をようやくナルに報告できたために安心したからか、初めて彼の周囲に靄が視えたときの鮮やかさを思い出していたことを思い出し、ぎゃっ、と珍妙な悲鳴を上げた。じわじわ、と頬に熱が集まってくるのが判って、とっさに顔を伏せる。


「ち、ち、違うの……! いや、好きは好きだよ。でもあの、そういうのじゃなくって!」


 ナルのことを、好きか嫌いか、で問われれば答えは決まっている。俺様何様ナル様だし、時に――いや、しょっちゅう厳しいことを言われるけれど、けれどそれは冷静に考えれば道理に合ったものばかりだ。それに、他人に厳しいひとだけれど、それ以上に自分にも厳しいひとだと知っている。とても判り難いけれど、本当は優しいひとだということも。なにより、今自分がこうして、人並みの生活を送れているのはナルが同情して、雇ってくれたからだ。そんな人に感謝をし、好意をいただくことはあっても、嫌うなんてありえない。
 なんだかんだ言ってもいつも助けてくれるように、守ってくれるように、麻衣だってナルを助けたいと思っているのだ。そうはいっても出来ることなんて美味しいお茶を淹れることと、危険を察知できる第六感くらいのものだけれど、それでも少しでも力になりたい。


「……違うのか?」

「へぇっ!?」


 あ、でもこの瞳に視えるのがなにか判ったら、それも役に立つ材料のひとつになれるかもしれない。そう、己の思考に入り込んでいた麻衣は、訝しげに訊ねられて慌てて顔を上げた。ばちり、と視線がぶつかったかと思うと、そのまま強いまなざしで見つめられる。


「ぁ、あの……ナル」


 まるで視線に囚われているように逸らせず、どくどく、と心臓がその存在を主張し始めて、麻衣はあえぐように口を動かした。


「ち、ち、ちが、うのか、って……」


 どうしてだろう。他人からの、それも女の子からの好意なんて嫌がりそうな人なのに、訊ねてくるナルはどこか残念そうに見える。テーブルに頬杖をついて、じぃ、と見上げてくる視線の強さにうっかり自惚れそうになって麻衣は、慌てて首を左右に振った。


(い、いやいやいや……そんな。まさか)


 研究一辺倒のワーカホリックで、生きている人間の女の子よりも幽霊の老婆の方が好みだと言い切る人物だ。だいたい、あたしがそういう意味で好きなのはジーンであって、とそう目の前の上司ではなく、調査中の夢でしか逢えない彼の双子の兄を思い浮かべた麻衣はしかし、ほんとうに、とどこか遠くから問いかける声を聴いた気がして、ぴたり、とその動きを止めた。


(ほんとうに……あたしの『すきなひと』は、じーんだった……?)


 思い浮かぶのは、優しい笑顔だ。ふわり、と広がる、泣きたくなるくらいきれいな笑顔。暗闇の中でも、あの笑顔を見たなら、ほっ、と安心できる。でも。


(でも、ナルのえがおも、きれい……)


 でも、彼のように満面の笑みではないけれど、ときおり見せてくる柔らかな微笑みはとても優しくてきれいで。


(うれしくて、ふわふわして……)

「――…そういえば、お前は女だったな」

「…………………………は?」


 今まで数えられるほどしか見たことはないけれど、そのたびにどきどきして、時々、無性に泣きたくなる。そんな笑顔を思い出して、ぽぅ、と若干意識を飛ばしていた麻衣は、ぼそり、とナルが呟いた言葉に、「はい?」と眉根を寄せた。


「そういえばって――…っ!?」


 そういえばってなんだ。今まであたしのこと、何だと思っていたわけ。
 と、そう反射的に怒鳴りつけようとして、だが、すい、と取られた左手を、まじまじ、と見つめられたことで言葉を飲み込んでしまう。かと思うと、ナルの右の手のひらがそのまま合わさって、しっかりと絡め取られた。指をそっとなぞられたり、あるいは親指で付け根の辺りを、ふにふに、と弄られたりして、麻衣は自分の頭がどんどんと真っ白になっていくのを感じた。ただ触られているだけなのに、何故だか恥ずかしくて仕方がない。


「あ、あ、あの……ナル」

「こういった場合は、こう答えれば良いのだったか」


 そんな麻衣の混乱が解っているのかいないのか、自然と赤らんだ頬を隠すように空いた右手で顔を抑えた彼女にナルが、じゃあ、と口を開いた。


「じゃあ僕と、恋人同士、とかいうものになってみるか」

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