書けたでけた~ぁぁ\(TOT)/
何故か、前編の倍以上の長さになったけれども(本当に、何でだ……orz)書きたいシーンは書けたので、良しとしておこう!!
そんなワケで、ナル麻衣同居物語in麻衣さん家エピソードお風呂編の後編で御座います~~♪♪
少しでも楽しんで頂けたなら、幸いvv
[19回]
「……なんだ、ここは?」
昔ながらの趣を残す、大きな煙突を生やした平屋の建物。もくもく、と絶えず白い煙を吐き出すそれと、入り口に掛けられた藍色の暖簾とを見やって、困惑を隠せないでいたナルに麻衣は、きょとり、と目を瞬いた。
「ん? だから、オフロ」
「……麻衣の家の風呂は、徒歩10分も離れた先にあるのか?」
「んなワケないじゃん」
嫌味ったらしく横目で見やれば、あっけらかんと答えられる。それならば、何故わざわざここに。と視線で訊ねると、だって、と彼女は肩を竦めた。
「だって家のオフロ、追い炊き機能付いてないんだもん。2人続けてすぐに入るんだったらいいけど、少し時間置いちゃうとお湯が冷めるからさ~」
残念ながら今日はもう、麻衣は風呂に入った後で、おまけに残り湯はすでに洗濯機へと突っ込んだのだという。時間も時間であるし、いつ入るか判らないナルのために、もう一度湯船に水を張るところから始めるのは勘弁してもらいたい、という彼女の言い分は、尤もだ。節約の意味もあるだろうが、あの壁の薄さでは防音機能なんて微々たる物だと思われるし、あまり遅い時間に入浴したり洗濯したりすると、隣室の住人の迷惑になるだろう。
「ぼくは別に、入らなくても……」
「1日2日くらいならともかく、アパートにいる間ず~っと入らない気? あたしそんな、不衛生な人を住まわせるなんて、嫌なんだけど」
あ、言っておくけどシャワー無いからね。
そのため、必要ない。と断ろうとすると、嫌そうに眉を顰められた。何せ、『こんなところ』ですから、と口唇を尖らせる彼女の様子に、どうやら先程自分が発した言葉は失言だったらしいと気付いたナルは、いつまでも店(なのだろう、これはたぶん)の前で、ああだ、こうだ、というのも不毛であるし、ひとまず了承したのだが。
かぽ~ん、とただ置いただけなのに妙に響いた湯桶に、ナルは今日何度目かになる溜息を吐いた。
なんだって自分は、こんなところにいるのか。
いや、何故も何も、彼だってさすがに一月か二月か、いつまでかかるか判らない生活の間、ずっと躰を洗わないなんて選択肢は無かったけれど、それこそ今日はもう遅いのだから、また明日、改めて入浴すれば良かったのでは無かろうか。
あちらこちらで、かぽ~ん、と間の抜けた音が聞こえ、少なくはない人数の人間が全裸のまま大声で会話を交わす――いわゆる、公衆浴場やら銭湯やらと呼ばれる空間で、ナルは遠い目になっていた。
そもそも、祖国にも母国にも、例え同性であったとしても見知らぬ他人同士が一緒に、同じ浴槽に身を沈める、という文化がない。温泉は基本的に飲むものであるか、または保養地の一部として存在しており、浸かるというよりも水着を着用した状態で泳ぐ施設だ。学生寮にでも所属していたらまた別だが、それにしても大半がシャワーのみ、それも安定して湯が出続けるわけではないから、どうしても手早く済ます必要がある。おそらくは、昔から温泉など豊富な湯量を誇る施設があちこちあり、一般家庭であっても当たり前に湯水が供給される日本だからこその風習なのだろうが、彼にとってはまさしく異文化だった。いざというときに身を守る物もない場所で、しかも全裸というすぐさま逃げ出すには憚れる姿で長く複数の他人と共にいる趣旨が理解できないのだ。
ともかく、さっさと済ませて、出よう。
そう決めて、ナルはそっと周囲を伺い見た。何しろ、銭湯などというものに来るのは初めてだから、勝手が判らない。どうやら各シャワー口の前に置いてあるボトルがボディーソープやシャンプー等のようだが、これはつまり、共有で使用しろ、ということなのだろうか。入れ替わり立ち替わり、適当に空いた場所に座って髪や躰を洗い出す様々な年齢層の男性を見ながらそう結論付けると、ナルは僅かに身構えた。誰が使ったのか判らないものに触れて、うっかり何かを見たら――いや、見るだけならばまだしも、こんな場所で追体験でもしてしまったら堪らない。
「おぉ~い、ナ~ル~~?」
すぅ、と呼吸を整えて、まず右側に置かれているボトルに手を伸ばす。ポンプ上部とボトルのサイドにギザギザとしたものを取り上げようとしたところで、妙に間延びした声に呼び掛けられた。
「お~い、なる~ぅ! ど~こ~~!!」
「…………………………麻衣?」
「な~る~! なるなるなるなる~~!!」
「喧しいっ!」
わぁん、と響きながら届くのは、隣接している女湯に入っているはずの麻衣の声だ。すでに入浴を済ませたはずなのに、一人で待ってても暇じゃん、と言って、いそいそ、と向かった彼女に何故呼び掛けられるのかが判らず無言でいると、さらに音量が増す。こちらの返事があるまで繰り返されそうなそれに鋭く怒鳴りつければ、一瞬だけ声が途切れた。が、すぐさままた、「で、ナルどこ~!?」と居場所を問い掛けてくる。
「……なんなんだ」
こんな公共の場で、いつまでも大声で名前を呼ばれるのは勘弁してもらいたい。周囲から、じろじろ、と視線が向けられているのを背中に感じつつ溜息交じりに返事を返すと、あ~のね~、と間延びした声が飛んできた。
「ナル、もう頭とか躰とか洗っちゃった~?」
「いや、まだだが?」
「あ、良かった~。ごっめ~ん、石鹸ナルの方に入れ忘れてたんだ、おにゅうの~。投げるから、受け取って~!!」
シャンプーとコンディショナーは、試供品をタオルに包んでおいたから~。
そう続けられて、こちらの返答も待たずに目の前の壁を、黒い塊が超えてくる。綺麗な弧を描いたそれは麻衣の言うとおり新品らしく、濡れた手で触ったのか若干箱が撚れていたものの、封がされたままだ。どうして入る前に開けておかないのか、どうせ捨てるものなので、多少の破れなどは気にせずにさっさと箱から取り出して石鹸を覆っている薄い紙を剥がしていると、後ろに誰かが近づいてくる気配がする。
「何か?」
「ぉわ!?」
空いている横のシャワー口を利用しに来たのだろうと考えていたのに、その誰かは明らかに自分へと向かってきていて、ナルは微かに眉を顰めると半身をずらした。先方から何らかの行動が示される前に振り向いて訊ねれば、驚いた表情をしている壮年の男性が立っている。まったく見覚えのない相手に不審さを露わにすれば、いやいやいや、と顔の前で右手を大きく左右に振った。
何を否定しているのか、日本に来て数年が経つが、まだまだ理解のできない動作が多い。ひょっとして煩くしたことへの注意でもされるのだろうか。と考え、とりあえず相手の出方を窺っていると、男性の口からはさらに理解のし難い発言が飛び出してきた。
「いや、兄ちゃんとカノジョさんとのやり取りが、母ちゃんと付き合ってた頃の俺たちとそっくりでねぇ。ついつい、懐かしくなっちまって」
「……は?」
女湯に入っているのだから、会話の相手は女性に決まっている。それなのにわざわざ、『彼女』だなんて三人称の主格で確認を取られる理由が判らない。それにしても、兄ちゃん美人さんだねぇ。と感心したように何度も頷く見知らぬ男にナルは、なんなんだ、一体。と盛大に眉を顰めた。
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